カルデラの底

ここは阿蘇カルデラの底。

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大観峰より中央火口丘群とカルデラを見る。

阿蘇カルデラの景色はまことに良いです。中央火口丘群だけでも他ではそうめったに見られない火山の連なりであるのだけれど、その周囲はだだっ広い平地であり(それによって中央火口丘群がいっそう際立つ)、さらにその外側に切り立った外輪山が囲んでいる。360度いずれの方向を見ても風景に隙がない。すべてが火山で、ここは火山の底。

古墳時代人はどこにでも古墳造る人々なのでカルデラの底にも古墳を造り、それもひとつ大きなのを造って満足するのではなく、たくさん造ってくれたおかげで現代の我々はとても景色の良い古墳群を見ることができるわけで、ありがたいことです。

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▲小嵐山より中通古墳群を見る。中央左に長目塚古墳がある。右には前方後円墳の上鞍掛塚A古墳など4基。

この写真は中通古墳群のほぼ全体を、外輪山の切れ端のような小嵐山という小山にある展望所から眺めたものです。ほぼというのは木が生えていて一部が見えないということなのだけれど、この写真を撮った位置からさらに登れそうな感じもあり、また発掘70周年を記念して山頂の木を伐って眺望を良くしたという話もあり†、山頂までもう少し登っておけばよかったとも思っています。

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▲前掲写真の左端の木に遮られて見えなかった勝負塚古墳(左下)と入道塚古墳(その上の小古墳)。背後に根子岳

現存10基はいずれも草が刈られていて形がよく見えます。立入禁止とかの表示はないので道に接している古墳はひとまず上に登っても問題なさそうです。群中の最大かつ唯一発掘調査されている前方後円墳である長目塚古墳は、少なくとも現状残っている形は、前方部が(河川改修でほとんど削られたが)低くてくびれ部がちゃんとキュっと絞られていて個人的に好きな形であります。

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▲長目塚古墳を南から。元々はこの右側に前方部があった。背後は象ケ鼻と小嵐山(古墳の右)。

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▲長目塚古墳のわずかに残った前方部より後円部を見る。右奥に大観峰が見える。

ところで、カルデラの「底」という立地について、広い田んぼができるくらい農業に向いた土地なのだから古墳を造る人々が住み着いたんだろうという大雑把な理解だったのですが、

普通、古墳というのは高いところ、集落から見上げるところに造っているのが通例なんですね。同じ阿蘇の中でもそういう場所に造ってある古墳も当然あるのに、中通古墳群だけは全部低いところにある。


阿蘇以外から来られているという方は分かると思うのですが、非常にカルデラの内外というのは行き辛い。比高さ(ママ)があるし、当時は道がないから大変であっただろうと。†

という話であり、なるほどちょっとした謎だ。
この古墳群があるのは川沿いで、つまり本当にカルデラの「底」だけど、普通はあまりそういう低いところに造るイメージではない。それから、カルデラ内外の交通ということについて言えば、今回は東から豊肥本線で来るときに長いトンネルを抜けたし、西へはスイッチバックで下った。数年前には集中豪雨で不通になったりもした。険しい山道であって、古墳時代的な意味で交通至便とは言えそうにない。

じゃあなんでそんなところにわざわざそれなりの規模の古墳群を造ったのかというのは考えれば諸説出てしまう感じのようですが、もし古墳時代人がカルデラの底の風景を気に入ったのからだという説があるのなら、支持してみたい気分はある。

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▲車塚A古墳。木が1本生えていてアクセントになっている。

もうひとつ、カルデラの南半分である南郷谷に柏木谷遺跡という古墳群があります。時期的には4世紀~6世紀の土器が出土しているそうで、中通古墳群と同じ頃ということになる。しかしこちらは小さめの方形周溝墓と円墳が高密度でひしめきあっていて、立地も底よりは少し高い緩斜面にあり、様相はやや違っています。中通古墳群が広く壮大でやや都会的な美意識であるのに対して、南郷谷の柏木谷遺跡のほうが素朴で田舎的な風景という感じがする。

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▲柏木谷遺跡の古墳群。背後に中央火口丘群が見える。

現在は道の駅のパークゴルフ場内にあり、古墳の間を縫ってパークゴルフができるようになっています。ゴルフをせずに古墳を見るだけでも入場できました。

 

〔参考文献〕
阿蘇市教育委員会(2021)『長目塚古墳発掘70周年・熊本県史跡指定60周年・出土品熊本県重要文化財指定記念シンポジウム記録集:中通古墳群を考える』阿蘇市教育委員会