パチンコ屋の前、寺の前

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▲駐車場内にある寺の前古墳群2号墳(さんごうじ塚古墳)。

石和温泉駅北口から国道を渡ったところにあるパチンコ屋の敷地内に古墳の墳丘の一部が残っています。名前は寺の前古墳群。この手の遊戯施設はあまり文化財保護とかしなさそうなイメージ(先入観)だったのだけれど、この古墳群は駐車場の植栽としてきれいに整備されてて、意外な組み合わせも含めて、いい仕事のように思われます。

駐輪場の脇にあるのが2号墳(さんごうじ塚古墳)。看板が立っていて、文化財の説明看板かと思ったら駐車場の注意表示だった。発掘調査報告書*によると「2基(2・3号墳)は墳丘が一部現存し」とあるのでわずかに土が盛り上がっているのは墳丘なのかもしれない。7世紀の円墳で、横穴式石室がかつてあったけど戦後取り壊されたとのこと。石が散らばっているのは石室の残骸であるのかどうかわからない(このあたりはもともと礫が多い)。

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▲2号墳。円形に石が置かれているが古墳の何かを表しているのかどうかは不明。
看板は盗難・事故の責任を負わない旨。

道路に面した場所に柵で囲われているのが3号墳(道祖神塚古墳)。きれいに石が積まれて道祖神が祀られている。これも墳丘がわずかに残っているように見えるけれども、少なくとも見えている石積みは後世に組み替えられているはずです。復元すると推定直径26mということで、今見えている部分よりずっと大きい。

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▲3号墳

ところで、寺の前古墳群というからには後ろに寺があります。大蔵経寺。300円で中を拝観できて、庫裏も本堂も大変にきれいに手入れされているし、静かにお不動さんを拝んでもよく、そして庭園が良いです。これもまた手入れされていて、最近改修されたらしい縁側に座ってひとり静かに(たいてい他に参拝客はいない)眺めているのが良い。

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大蔵経寺の庭園

根拠があってのことではないけれど、あるいはとっくに誰かが指摘していることかもしれないけれど、庭園は音に特徴があるといっそうよろしいように思われます。例えば回遊式庭園の場合だと、歩いていてだんだん水音が近づいてくる。せせらぎが見えて、音も風景もにぎやかになる。それを越えてしばらく進んだところで不意に水音がまったく聞こえなくなり、風の葉擦れの音だけが聞こえる。静寂。この急激な場面転換に出会うと、いい庭に来たという感じがします。

反対に庭園の拝観順路で案内放送を流しているような場合はせっかく庭の音を聞きたいのに惜しい。しかしそういう騒音じみた音もまた現代の寺の風景だと思うと趣深いといえるかもしれないし、あるいはそういうところに美しさを感じるほうが仏教的かもしれない。

案内放送がずっと流れてる庭園についてはちょっと面白い体験があって、川越の喜多院の庭を見ているときのことです。放送が煩わしいと思っていたのだけど、順路の途中のトイレに行ったところトイレの前だけは放送が聞こえなくなり、手洗いの水が流れる音だけがして、狙ったものかどうか静寂に包まれた。そうするとさっきまで煩わしいと思っていたのに急に良い庭のように思えてきて、つまり音ひとつで印象が随分変わるのだなあと感じたという話です。

大蔵経寺の庭に戻ると、この庭園は回遊式ではなく縁側に座ってボーッと眺めるタイプです。したがって歩きながらの時系列的な音の変化というのはない。しかし静かな空間に水の落ちる音だけがしていて、しかも面白いことに風で竹が揺れても葉擦れの音が水音にかき消されて聞こえないのです。水音のする庭に、音もなく竹が揺れているように見える。なんだかそれが竹が揺れるという“現象”そのものを見せられたようで一瞬、非日常に迷い込んだような気がした。

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 (参考・引用)

*山梨文化財研究所(編)「笛吹市文化財調査報告書 第26集 大蔵経寺前遺跡・寺の前古墳群 ―遊戯施設建設にともなう埋蔵文化財調査報告書―」2012