有年、古墳がたくさんあるところ

山陽新幹線相生駅から鈍行に乗り換えて一駅、有年うね駅で下車。周辺には弥生時代から古墳時代にかけての遺跡が多い、というわけで駅前の観光案内所でレンタサイクルを借りて古墳巡りに出かけます。

▲駅前の観光案内所で借りたママチャリ

ところでこの自転車、タイヤの空気はきちんと入っているしチェーンの具合も悪くない感じだけど漕ぐのが妙に重い。とりわけ登り坂はしんどい。しかし徒歩よりは速い。1日300円です。遺跡巡りにどうぞ。

▲有年原・田中遺跡の復元された墳丘墓

はじめにやってきたのは有年原・田中遺跡。弥生時代後期の墳丘墓が復元整備されています。並べられている装飾器台・装飾壺セットはいかにも弥生時代らしい造形で良い仕事をしています。このセットが時とともに形を変えて岡山県あたりでは特殊器台・特殊壺セットになり、さらに古墳文化に取り込まれて円筒埴輪につながっていくのだという。

▲有年原・田中遺跡出土品、有年考古館

少し離れたところにある有年考古館では出土した実物を見ることができます。渦巻文に鋸歯文。やっぱり弥生時代のデザインといえばこれですね。縦三本の紐を並べたような装飾もある。壺と器台それぞれの形状も良いし、何よりそれら(文様と形状)の組み合わせのバランスがちょうどいい。これまでに弥生土器を見た数などたかが知れているけれど、その中から選ぶなら個人的にこの有年原・田中遺跡の器台・壺セットは一番好きです。

▲装飾器台の渦巻文拡大

有年には後期古墳もあり、続いてはそれを見に行きます。進まない自転車で向かい風に立ち向かい、さらに民家の軒先っぽいところを申し訳ない感じで通り抜けて(看板のとおりに進んだらそうなる)たどり着いたのは木虎谷きとらだに二号墳。

▲木虎谷二号墳

柵があって古墳に入ることはできないけれど、柵の前から古墳の石室を覗き見ることができます。そしてこの古墳の特徴である石棚があるのがわかる。石棚とは石室の中のいわば作り付けの棚のことで、「西日本、特に環瀬戸内海地域を中心としてまとまっ」ているというローカルな構造でもあります(1)。しかし棚としての使用だけでなく棺の覆いや石室の補強に使われたとも想定されていて(1)、木虎谷二号墳の石棚はその下の空間に棺を置けるような敷石があることから棺の覆いだったのだろうということです(2)。すべての古墳にあるわけではないのでなんらかの差別化の意図はあったんでしょうね。

▲木虎谷二号墳石室。真ん中に石棚が見える。

さらに進んで塚山古墳群。林の中に多数の円墳が残っている。調査も整備もほとんどされておらず、かといって積極的に破壊されてもいない、純粋に時の流れで朽ちていった遺跡の姿があります。下手に復元や整備をしてしまうときっと大事なものが失われてしまうだろうなと思える静謐な墓所。自然のままなので石室が崩れていたり、崩れそうになっていたりもする。でもできればこのまま残っていてほしい。

▲塚山古墳群

▲塚山6号墳石室。間仕切りがある。

▲石室の天井石が落ちそう

〔参考文献〕
(1)藏冨士 寛(2002)「石棚考―九州における横穴式石室内棚状施設の成立と展開―」日本考古学 第14号
(2)赤穂市史編さん専門委員(編)(1981)『赤穂市史 第一巻』兵庫県赤穂市