沖縄で貝殻を買う

寒波が来るというので寒さを避けて沖縄へ行ってきました。いや、実際のところ避けきれなかったのですが。
というのも、沖縄でも1月末は普通に北風が寒い。寒さのレベルが本土とは段違いに低いのではあるけれど、風を防げる上着がないと肌寒いと感じる程度ではある。少なくとも暖かくはない。おまけに日本海側の冬みたいに晴れたり雨が降ったりを繰り返していました。東シナ海からの風が直撃する、琉球は島国なんだなあと思う。

結局、海辺でバカンスみたいなことはできず、帰り際に空港近くの瀬長島の砂浜を歩いたのが唯一の南国ビーチ的な体験だった。

▲瀬長島の砂浜から

沖縄に来たら買おうと思ってたのが貝殻。なんでかというと沖縄の貝殻は古墳時代人愛用の品なのですよね。わざわざ琉球諸島(⇒古墳文化の圏外)から貝殻を手に入れて、穴を開けて腕輪にしたやつ(=貝輪)を弥生時代以来珍重していた。さらには貝輪の形をモデルにした石釧・鍬形石・車輪石などの石製品を作ったりもしている。

▲石釧、東大寺山古墳出土、東京国立博物館

▲鍬形石、同

▲車輪石、同

このうち石釧はイモガイ、鍬形石と車輪石はゴホウラの腕輪をモデルにしているらしい。(1)
少数派の貝種としてはスイジガイの腕輪も作られていて、静岡の松林山古墳と山梨の甲斐銚子塚古墳で出土している。スイジガイは沖縄では今でも魔除けにしているそうで(見た目はいかにも魔除けになりそう)、古墳時代人も同じような用途で使っていたかもしれない。

▲スイジガイの貝輪、松林山古墳出土、東京国立博物館

というわけで国際通り沿いのお店に行ってイモガイとゴホウラとスイジガイを買いました。ちなみに浜に落ちてるやつは持ち帰り禁止だそうです。店で買わなければならない。

まずイモガイ

イモガイ

きれいな三角錐の巻貝型なので輪切りにして輪っかにするのは簡単に想像できる。ただしこの貝殻は小さいので腕には通らなさそうだ。

次はゴホウラ。

▲ゴホウラ

これは結構ずっしりとしている。中心部はサザエみたいな巻貝があるのだが、その周囲に平べったい貝殻がくっついたみたいな不思議な形。このまま穴を開けたら鍬形石の形になりそうだし、巻貝部分を輪切りにしたら車輪石みたいになる……のだろうか。

最後にスイジガイ。

▲スイジガイ

とげとげしている。ただしこれは小さい上に形があまりかっこよくない個体。比べると松林山古墳のやつはとげの出方がきれいだし、表面を削ってかっこよく仕上げてあることがわかる。大きな古墳を造れるくらいの偉い人だから高級品を選んで買ったのであろう。生きている時代は違っても王と庶民の差である。

ところで現代人としてはどう使うかですが、イモガイは形がきれいなので本棚の置物に。ゴホウラは重いので文鎮にでもなるか。スイジガイは魔除けとしてぶら下げることにしました。部屋の一角がいろんなモノを除けられそうになってきた。

▲スイジガイの実用。

(1)北條芳隆(2013)「腕輪形石製品」『古墳時代の考古学4 副葬品の型式と編年』同成社
〔その他参考文献〕
橋本美佳(2013)「貝製品」前掲書に所収
木下尚子(1996)『南島貝文化の研究』法政大学出版局
沖縄考古学会(編)(2018)『南島考古入門 ―掘り出された沖縄の歴史・文化』ボーダーインク