出雲紀行その1 くにこ、くにこ

有名な出雲の国引き神話

「栲衾志羅紀の三埼を、国の余ありやと見れば、国の余あり」と詔りたまひて、(中略)三身の綱打ち挂けて、霜黒葛闇耶闇耶に、河船の毛曾呂毛曾呂に、「くにこ、くにこ」と(出雲国風土記「意宇郡」条より)

出雲の神様である八束水臣津野命は国作りをしてみたけどどうにも上手くいかず、国が狭いので、「土地の余ってる対岸の新羅から切り分けてこっちに縫いつけなアカン」と言って、太い綱を引っ掛けて、繰るや繰るや、川船を引くように「もそろもそろ」とゆっくりと、いなくなったかつての愛人を連れ戻すように「くにこ、くにこ」と。(誤訳)

国引き神話の「国来」をひらがなで書き下す解説文を読んで以来、神力を使って邦子を連れ戻す神様の寂しそうな声とともに思い浮かべられるようになってしまったのである。新羅へ行ってしまった邦子。きっとその土地を引っ張ってくれば会える。
「くにこ、くにこ……」
宍道湖の湖面を波立たせる初秋の風は神様の悲嘆にくれる声である。
国よ、来い。

神様が対岸から引き寄せた土地が宍道湖の北側の島根半島で、その時に引っ張ってきた綱が薗の長浜(出雲市の西側にある砂浜は昔は細長い砂州だった)ということらしいです。スケールがデカい。さすが神話である。そして神話だから非現実的である。

それで、神話だから別にいいんだけれども、そんな取って付けたような作り話、たとえ科学が進歩していない時代とは言え古代人は信じていたのだろうかと、地図を見て思ってた。少なくとも地図(google map)を見る限りではそんなに夢のあるファンタジーって感じではないし、なんかワクワク感がないなあって。

そんなふうに思ってたところ、出雲旅行の途中で高台に上がってみたんです。松江市にある古墳の近く。宍道湖が見えて景色が綺麗。キラキラ輝いてる。それでふと西の方の遠景を見てたらひらめいてしまったのである。


ウオオ、しまったこれはファンタジーだ、手のひら返しでワクワクしちゃう。

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写真の右が北で、左が南。真ん中が出雲市街のある低地。こうやって見ると、右側の山(=島根半島)と左側の陸地(=本州)が綱(=低地部分)で繋がってるように見える。これなら神話があってもおかしくないじゃないですか。例えば湖上に霧が発生したような日に、モヤの向こうにうっすらと対岸が見える、そんなときに陸地側に光の加減かなんかで大きな人型の影が見えたりしたら、神話ができるかもしれない。

出雲神話をまとめて風土記を書いた出雲国造という今でいうところの島根県知事のような人は松江の南側に拠点を構えていたということなので、視点は宍道湖東海岸。写真と同じ方向から出雲を見ていたわけで、かなりリアルなファンタジーとして神話を捉えてたかもしれない。古代にはgoogle mapなんてなくて人間が実際に目で見た景色が全てだし、現代のオタクがgoogle mapだけを見て神話に疑問を呈するなどPC上の空論であった。

この感じを伝えるため、なけなしの絵心とペイントソフトで神様想像図を描いて写真に加えてみました。質感は全身タイツで肌は空色、霧の日に姿を現して動きはゆっくり。っていう設定で。

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