ニュータウン式古墳群

 せっかく千葉県民であることだしちょっとくらいは近場の古墳も見てみるべえと思い立ち、成田の西の方をぶらぶら歩いてみた。実は成田の古墳を歩くのは初めてである。

 成田駅から西へまっすぐ30分ほど歩くと右手に赤坂公園があって、その中に船塚古墳がデデンと据わっています。まさに据わっている。デカい土の塊。前方後方墳と書いてあるけれどどこが前でどこが後か分かんない。どっちも同じに見える。段のある人工的な土盛と、周囲に周濠らしき窪みがぐるり二重に廻っているのは確かに古墳っぽいのだけど、くびれていなくて寸胴でどちらかというとというかそのまんま長方形ではないか、これデカい方墳っぽい。でもそうじゃないらしい。古墳の道は奥が深い。f:id:hamajiu:20150222224531j:plain

(船塚古墳の南西側からパノラマ。ただのデカい土盛に見える)

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(段がある古墳っぽさ)

 

 公園の一部ゆえ立ち入り自由で、近くでは子供がサッカーボールを古墳に向かって蹴っている。実に自由でよろしいな。奈良の古墳でそんなことしたら宮内庁のコワいおじさんが飛んでくるに違いない。家族連れが何組か墳丘の裾のあたりで走り回ってたりして、いかにもニュータウンの中って感じです。
 近くには木が何本も生えてる円墳があった。

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(円墳)

 

 そこからちょっと南へ行くとイオンがあって、赤坂公園のあたりとはまた別の一群である瓢塚古墳群というのがあります。むしろこっちのほうがニュータウン古墳群の真骨頂であって、まず最初に見つけた7号墳からして素晴らしかった。これまで知ってる限りで最もイオンに近い古墳。というかイオンの敷地内にある。

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(イオン古墳

 

 さらに裏手には公園の歩道が2つの古墳の間を縫っていてこれまた完全に古墳ニュータウンに取り込まれてオシャレ空間になっている。全然墓って感じがしない。いや、むしろ古墳造ったおじさんたちというのはデカく派手に造って自分の偉いところを人に見せたかったはずなので、「薄汚くて気持ち悪い」よりも「キレイでシャレオツ」のほうが本来の目的を達成できてるはずなのです。このへんの都市設計した人すごいなあと思う。

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(シャレオツニュータウン古墳群。パノラマ合成失敗してビルが歪んでいる)

 

 さらにさらに進んでいくと古墳群のネームシップ(というのかどうか知らないけど)瓢塚古墳があり、ここでは子どもたちが元気に後円部から滑り降りてキャッキャしてた。何基かの古墳が公園内に囲われていて、公園の築山のようになってます。
 小さな前方後円墳だけど丸っこい形がたいへんかわいらしいです。あとてっぺんに木が生えてる円墳とか。古墳として見るとヘンなんだけど公園なら普通っぽい。むしろ取り込んでしまうことでニュータウンと調和して街の一部になっててすごく良いです。なのでこの嬉しい感じを込めてニュータウン古墳群と言うことにしてみた。開発で文化財消滅とかめっちゃ悲しいので全国各地この方向でもっとたくさん保存してくれるといいなあと思う。

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(公園内の古墳。右が瓢塚古墳の後円部で、上でお子さんが遊んでらっしゃる)

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(瓢塚古墳のパノラマ。丸くてかわゆい。右が前方部)

 

 今度は北へ向かい、団地が立ち並んでるあたりの細い道へ入ってみると、こっちは小さい古墳がぽこぽこと乱立してる場所です。が、なんか小さすぎじゃね? ってのもいくつかあって、これ古墳じゃないんじゃないかって気もしてきた。年初に大阪の風土記の丘で見た小さな古墳はある程度土盛りが削れると石室が露出してたんですが、ここにある小さいやつらは全然そんな気配がない。何かもっと別の塚も混じってるかも。あと、小学校の敷地内にも古墳があって、フェンス越しに眺めてたので不審人物として事案上がってたらそれは私かもしれない。小学校に古墳があるってのもニュータウン式ですな。

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(やけに小さい。木が生えてて盆栽っぽい。盆栽式古墳と呼ぼうかしら)

 

 さらにちょっと歩くと天王塚古墳があって、ここだけはニュータウン式ではなくて、てっぺんに神社のある森のなかの古墳。「そうそうこれぞ古墳」て感じの正統派だ。ニュータウン式を見続けた後だったのでみょうに安心してしまった。

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(天王塚古墳は森のなか)

古墳サイドビュー、古墳パノラマ、あるいは古墳photosphere

古墳のパノラマ写真。上手くいったような、ダメだったような、モヤモヤした感じだ。もうちょっと工夫したら変わるかも?

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なぜ古墳のパノラマ写真をやってみようと思ったかというと、何か色々あったんだけども、スタートは本です。

古墳とはなにか  認知考古学からみる古代 (角川選書)

古墳とはなにか 認知考古学からみる古代 (角川選書)

 

 前方後円墳の形について、前方部と後円部とその間のくびれ部の高さに注目した考察がたいへんおもしろくて、(それがこの業界の通説なのかどうかは知らないけど)古墳の見方がちょっと変わったのです。以下引用しながら紹介します。

 

まず古墳の変遷について、年代に沿って並べるとこうなるという。


箸墓:最初期の古墳。後円部からスロープが下りて、前方部へと上がる。
西殿塚:箸墓よりちょい後。前方部が上がらない。代わりに壇がのる。
柳本行燈山:四世紀初頭。後方部は壇すら無くなって平ら。
渋谷向山:さらにちょい後。後円部から下りるスロープが無くなってまっ平ら。
五社神(神功陵):四世紀中頃。スロープ復活。ただしあんまり下りない。
仲津山:五世紀初め。これ以降の基本形。スロープが高い位置になる。

 

この変遷を勝手に模式図にしてみた。たぶんこれで合ってると思うけど違うかも。違ったらごめんなさい。

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それで、こういう事実を踏まえた上で、箸墓については

高くさし上げた主の遺骸のありかと、それを背にして周囲を睥睨する前方部端とを往来するスロープ通路をショーアップする

そして、よくわからんうちにスロープ無くしちゃったけど、スロープ復活以降については、

その形の本質は、箸墓で考えだされたスロープ通路を天空高く浮上させていくことだった。この「天空のスロープ」こそ、機内の大形の前方後円墳の主が超自然的存在にまつり上げられていくときの、もっとも中心的なコンセプトだったと推測できる

ということで、このスロープの形状が前方後円墳の形を考えるときにとても重要なのではないかということですね。

 

そういうのを読んではいたんだけど、当初は全然気にしてなかった。が、あるときなんとなく撮った写真を見てて思いついた。

 

もしやサイドビューってめっちゃそれっぽい。

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(黒塚古墳奈良県

 

そのとき頭の中に浮かんだことがいくつかあって、箇条書きにすると。

  • スロープが重要だとすると真横から見るのが一番わかり易い。
  • 古墳時代のピープルもみんな上からじゃなくて横から見てたんだからこれが一番普通な鑑賞方法かも。
  • 上から見た平面の四角とか丸の違いって古墳を作った目的とはあんま関係ないかも。横から見たら前方後方も前方後円も同じだ。(これについては上の本でも書かれていて、平面形は政治的意図よりも「地域独自のアイデンティティや伝統」とのことです)

それで、さっそく大阪の古市まで行ってサイドビューを撮ってみたのだが、古墳てデカい上に遠くから撮れない(大阪の古墳は近くに住宅地とかがある)ので、写真一枚には全く収まらないのである。困った。

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(古室山古墳大阪府

 

そこに登場するのがパノラマというわけです。フィルムカメラの時代にあった上下を狭めただけのなんちゃってパノラマと違って複数枚合成したやつ。かなり綺麗に繋がるっぽいしかっこいい。これやってみたい。というわけで、こんどは宮城県に行ったついでに雷神山古墳でパノラマやってみた。ただし、一眼と三脚持って行けない用事だったのでスマホタブレットで撮影してカメラアプリの合成機能使いました。あとストリートビューみたいな360度回せるphotosphereってのが近未来的でカッコ良い機能だったのでそれもやってみた。

 

まずこのページの一番上に載っけたやつがvivo tab note8とwindows8のカメラアプリで撮ったやつ。この組み合わせだとホワイトバランスがやけにブルーに寄るので困る。解像度も低い。(設定しだいでどうにかなるかも?)

それから、HTC J Oneとgoogleカメラ。これはかなり解像度高いしつなぎ合わせるのもうまい。HDR的に露出を補正してくれるので見栄えもする。ただ、構えた時に水平になってなかったらしく、肝心の古墳がぐんにゃりしてしまった。

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さらにphotosphere。これは前方部に立って360度ビューにしてみた。前方部で祭祀が行われたのだとするとここからのビューは意味ありそうだなあって思って、上れる古墳ではいつもここに立ってみるんだけど、今のところ特に発見はない。

リンクはここから

 

photosphereから平面の写真を作ることもできてこれもまたよろしい。

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感想としては、思ったほど「ウオオオッ」ていうのは無かったけども、もうちょっといろいろやってみたい。せめて、きちんと水平出して三脚にのせて一眼で撮りたい。古墳のphotosphereはgoogle mapを見たら既にやってる人がいるみたいで、これからもっと増えたら面白いなあと思ってます。

噂のコフン・アンダー・ザ・ブリッジ

 赤面山古墳との出会いはめっちゃ唐突に実現してしまった。日本最大級の誉田御廟山古墳を見て、せっかくなので拝んで、そしたら隣にも大きな前方後円墳があるので登ってみて、さらに高速道路を挟んでデカい古墳が見える、こいつはすごいぞ古墳だらけだって思って古墳脇の細い生活道路をチャリで走り抜けたその先で、突如として目に飛び込んできた風景が、まさしくネットで見たソレだった。

 

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 たしか初めて知ったのはデイリーポータルの記事で、なんか調べてたら個人のサイトとかでも結構紹介されてる。「高速道路の高架の下にある」「古墳を潰さないようにわざわざ橋脚の本数を減らしてある」もうこれだけでワクワクです。そんなスゲえ古墳なら一見の価値ありだ。


 ところが今回の古市古墳群巡りのコースには組み込んでなかった。そこは天邪鬼でありひねくれオタク、「カタギが喜ぶようなモン見て同じように嬉しがってちゃいけねえ」ってなわけで、大した古墳オタクでもないのに硬派な玄人のつもりで避けてた。しかし避けようがなかった。なにしろここは古墳群のまっただ中なんだから。東京に行くときは新幹線に乗る、というのと同じように古市巡りでは赤面山の前を通る、のである。たぶん。古墳巡りの大動脈である。


 それで、もう、一目見た瞬間に、ひねくれた考えが全部吹き飛んでしまった。「ウオォこれはすごい」ってなった。古墳がきちんと高速道路の下で命脈を保っている。のみならず、側道は古墳の形にきちんと曲がっているし、そこを通る車が「なんで曲げんねんメンドーやなあ」って具合に速度を落として曲がっていく。千数百年前に造られた、誰かエライ人の墓が、現代人に面倒なことをさせている。すごいすごい。

 

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 この古墳、高架下の側から見るとほんとにただの土盛で、工事の残土と言われてもわかんない。たぶん、残土のせいで側道が曲がってるって思ってる人もいるにちがいない。草が生えてなくてツルっとしてる。各種整備された古墳はいくつか見てきたけれども、こんなにツルっとしてる土盛の古墳は初めて見た。完全に高架下の土って感じだし、周辺の風景に溶け込んでて違和感がない。でもきちんと現代人の動きを「よっこらしょ」って曲げてる。これはすごいことです。

 

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 そうしてしばらく、古室山古墳の裾にチャリを停めて、高架下の古墳を眺めてた。コフン・アンダー・ザ・ブリッジだった。