木曽馬、松本平

木曽馬を見に行った。なぜ木曽馬かというと、頭が大きくて足が短い中型馬という特徴が古墳時代の馬に似ているらしく(1)、また日本在来種だから現に古墳時代馬の血をいくらかでも引いている可能性は高く、実際に見たら古墳時代的雰囲気を感じられるだろうという考えがありました。
行き先は長野県の「木曽馬の里」。木曽福島から山を越えて行きます。途中までは雨は降っていなかったけれど、峠を越えたところで一気に本降りになってしまった。さわやかな高原の放牧地で木曽馬たちが楽しそうに駆け回っているような光景を期待していたので残念ではあるが(雨が降ると馬は外に出さないとのこと)厩舎の中で至近距離で馬を見ることができてこれはこれでよかったかもしれない。

▲福栄号

木曽馬はサラブレッドにくらべるとずんぐりしてもこもこしています。雨の日の厩舎の中が暇すぎるせいかやる気がない目をしている。のんびりして間の抜けた感じは埴輪馬にも似た雰囲気があり、当時の馬もこんなだったのかなあと思う。

▲明花号

帰りは木曽から鳥居峠を越え松本方面へ。いま国道19号になっているこの道=木曽路古墳時代にはまだ無く、開通したのは少し後の奈良時代8世紀(702-713年)のこと(2)。当時のルートは不明な点が多く、国道19号と同じ鳥居峠を通るとする説と、北回りで境峠から梓川に出て今のアルピコ交通上高地線に沿ったあたりを松本市方面に向かったとする説がある(3)。後者だと古墳的には話の繋がりがいいです。というのも、このルート上では木曽路が開通する少し前の7世紀後半頃から開発が本格化して集落ができ、8世紀にかけて古墳群が造られている(4)。土地の開発と道路の建造が連動していたのかもしれない。現代でも高速道路ができると同時に周辺が開発されたりしますね。

木曽路ルートの2説

上高地線(上図の「松本電鉄」)の線路近くにある、もしかしたら木曽路と関連するかもしれない(と勝手に想像している)安塚第6号古墳と秋葉原第1号古墳。

▲安塚第6号古墳

付近にはもっとたくさん古墳があったそうだけど、いま残っているのは2基だけになっている。どちらも墳丘は破壊されて石室の下半分だけになっていて、さらに秋葉原第1号古墳は移築復元されていて場所すら変わっています。しかしともかく残っているのはありがたいことです。こうやって見に行くことができる。

▲安塚第6号古墳、別角度から。

奈良時代に入っていることもあり、近畿ではすでに古墳が造られない時代である。しかし東国は古墳を築造し続けた人々もあり、この安塚・秋葉原古墳群もそれに列なる。ただし、当初は横穴式の古墳として造られたものが「ほどなく天井石がとりのぞかれ、」(4)火葬場として利用されるようになったらしい。古墳時代の終わり、という感じである。

秋葉原第1号古墳

この新開発の土地に集落や墓を造ったのはどういう人だったのか。端的に言うと、当時としては新しい農業技術を持ってどこか外部から来た人々だったらしい。それ以前には湧水や小さな川の周辺にしか田畑を作れなかった(のでこのあたりに集落はなかった)のが、新しい技術は川のない場所にも水を引くことができるようになった。そうして土地を切り開き、田畑を営み、集落を造った(4)

これらの人々がどこかから来たという「どこか」とはどこなのか。はっきりしないらしいけれど、古墳の石室の構造からすると少なくとも近隣ではないようです(4)。勝手な推測をすると、土木技術というところからの連想で、木曽路を造った一団が関わっていそうな気がする。全くの無根拠ではなく、木曽路を造ったのは『続日本紀』によると(2)隣の美濃国の人々だったようなのですが、安塚・秋葉原古墳群や近くの集落遺跡からは美濃国で造られた須恵器が見つかっていて、(4)なんらかの関連はあるかもしれない。

最後にふたつの博物館へ。
ひとつめは塩尻市立平出博物館。市内出土の土器のコレクションが多くて、特に縄文土器は点数が充実しています。

▲平出博物館の縄文土器。いいデザインである。

近くには平出遺跡という縄文時代から平安時代にかけての大きな遺跡があり、各時代の住居が復元されている。復元住居だけなら各地にあるけど、高床倉庫に入れるのは初めて見た。古墳時代人の気分になれます。

▲復元高床倉庫。

▲高床倉庫の内部

ふたつめは松本市立考古博物館。こちらも縄文土器が充実している。それから、市内の弘法山古墳出土品が揃っている。壺がいい形してます。下膨れのぽってりした感じがとてもよいです。

弘法山古墳出土の壺。

〔参考文献〕
(1)丸山真史、覚張隆史(2019)「動物考古学による古墳時代のウマ研究」『馬の考古学』雄山閣
(2)青木和夫ほか(校注)(1989)『新日本古典文学大系 12 続日本紀1』岩波書店
(3)山田富久ほか(2020)「「木曽古道」の経路と地形」『第29回調査・設計・施工技術報告会 論文集』地盤工学会中部支部
(4)松本市(編)(1996)『松本市史 第二巻 歴史編1 原史・古代・中世』松本市