つらみ/つらつら

つらみ  つらいこと。つらい気持ち。(デジタル大辞泉

これまで生きていてつらみを感じていた期間を感じていなかった期間で割ったものをつらみ係数とするならば、わたしのそれは1を超えているのです(面倒な話だ)。なにしろ生まれてすぐに七歩歩いて右手で天、左手で地を指差し、「天上天下唯つらい」とつぶやいてため息をついたという。嘘だけどさ。

つらければ酒を飲む。人が酒に浸るのはいまに始まったことではなくて、古来酒飲みピープルは酒を飲んだ。古代の酒はアルコール濃度がいまよりも低かったらしいから、ちょっとずつ染みるように酒を飲んだのでしょうか、じつに金曜日の夜という感じがする。現代でも金曜日は染みるように酒を飲む。つらつら酒飲みパーソンの大先達であるところの大伴旅人に曰く、

なかなかに 人とあらずは 酒壺に なりにてしかも 酒に染みなむ

半端にニンゲンなんてやってるくらいなら酒壺になってしまえばよいのだ、そしたら全身に酒が染み込んでくるから。酒飲みの鬱屈。

万葉集』の素朴で力強い歌風は「益荒男振り(=ますらおぶり、男性的でおおらかな歌い方)」と呼ばれる。私たちの胸に直接訴えかけてくるこの力こそ、「歌」そのものがもつエネルギーであろう。角川書店. 万葉集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫) (Kindle の位置No.3657-3659). 角川書店. Kindle 版.

直球のエネルギーというのが、最近のTwitterとかのあえて馬鹿っぽく大げさで直球なパワーワードを投げつける表現がなんとなく似ている気がして、万葉集って現代のネット文化と親和性高いのではないかと思ったりなどします。こんなのもある。

川の上の つらつら椿 つらつらに 見れども飽かず 巨勢の春野は (春日蔵首老)

これ現代ネット文っぽいじゃん。って初めて読んだときに思ったのです。思わぬですか。まあどっちでもいいですケド。つらつら椿。つらつら。つらいわけではない。漢字で書くと「列列」であり、椿の並木が並んでいるかもしくは重なり合って咲いている様子らしい。他にも表現はあるに違いないのに敢えて選ばれたつらつらです、1300年の時を経てなお鮮烈に突き刺さる。

この歌が気に入ったので旅行のついでに寄り道をして歌の舞台である巨勢に行ってみた。奈良県吉野口駅のあたりだというネット情報があり、またその阿吽寺の椿が有名らしいのでお参りしたのだが、

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ほとんど散ったあとだった。つらつら。つらみの方の意味において。ちなみにわたしは山茶花より椿が好きです。なんでかというと花がいきなりボトッて落ちるから。はらはらと一枚ずつ散る儚さなんていう感傷を見る者に与えないのです。絶対に散るぞという強いパワーがある。

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▲手水に椿が浮かべてある。

奈良県まで来ておいて肝心のつらつら椿を見ることもできず、それじゃ仕方ないので帰り道に古墳がつらつらしている新沢千塚古墳群に来た。500基以上の古墳がひとつの丘に葡萄の実みたいに連なっているつぶつぶ感がとても良いです。衛星写真でどうぞ。

前回来たときには工事中だった道路の南側の群が整備されて公園になっておりました。おかげで古墳の連なりがいっそう見やすくなっていた。が、これまた前回来たときにもそうだったのだが、上空からでなく地面にくっついた状態で写真を撮る場合に、このつぶつぶ感を上手く表すことができないのである。歩きながらあっちこっち見てるときはすごくつぶつぶ感を感じるのに写真で切り取るとダメなんですよね。なにごとも上手くいかないものです。つらつらのつらみ。

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▲古墳がつらつらしている。

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▲つぶつぶしている。